三つの新年、三度の始まり——暦と時間の深遠なる物語
今日は『除夕』。
中国の旧暦で一年の最後の日。明日から、新しい年が始まる。
僕は今年、三回も新年を迎えた。
一回目は、元旦(1月1日)。
二回目は、立春(2月4日)。
そして明日、春節を迎える。
なぜ、同じ年に三度も「新年」があるのか。
なぜ人類は、こんなにも多くの「始まり」を刻んできたのか。
少し深く、潜ってみようと思う。
【第一章】太陽暦(グレゴリオ暦)——普遍的な時の物語

私たちが普段使っている暦は、グレゴリオ暦と呼ばれる太陽暦だ。
地球が太陽の周りを一周する時間を365日とし、4年に一度の閏年で調整する。
この暦の特徴は、「どこでも通用する普遍性」にある。西暦2026年は、世界中のどこでも2026年だ。国境を越え、文化を超え、人類が共有する「時の物差し」。
1月1日を新年とする習慣は、古代ローマに遡る。ローマ暦では3月が年初だったが、紀元前153年に執政官就任の日が1月1日に変更され、やがてユリウス暦、グレゴリオ暦へと受け継がれた。
「世界中が同時に祝う新年」——それが元旦だ。
【第二章】二十四節気——自然と共に生きる智慧

立春は、二十四節気の最初の節気である。
二十四節気とは、古代中国で生まれた、太陽の動きを24等分して季節を示すシステムだ。約15日ごとに節気が巡り、農業と密接に結びつきながら発展してきた。
ここで驚くべき事実がある。
二十四節気は、れっきとした太陽暦なのだ。
多くの人が二十四節気を「旧暦」と思いがちだが、実は全くの別物。二十四節気は地球が太陽の周りを回る位置で決まる、科学的で正確な季節の指標である。
立春は、その二十四節気の一番目。「春の気立ち始める」という意味を持ち、厳しい冬が終わり、万物が芽吹き始める節目の日とされる。中国では古来、立春を一年の始まりと捉える考え方もあり、「立春大吉」の札を玄関に貼る風習も残っている。
日本でも「新春」という言葉は、かつて立春を新年としていた名残だ。本来、日本も立春を新年としていた時代があったのだ。
【第三章】旧暦(太陰太陽暦)——月と太陽が織りなすリズム

そして春節。
春節は、旧暦(太陰太陽暦)の新年である。
旧暦は、月の満ち欠け(約29.5日)を基準にしている。新月の日が「朔日(ついたち)」となり、満ち欠けを繰り返して一ヶ月となる。12ヶ月で約354日。これは太陽暦の365日より約11日短い。
このままでは、3年もすれば季節と暦が大きくズレてしまう。そこで生まれたのが「閏月」という知恵だ。約3年に一度、同じ月を二度入れることで、季節とのズレを調整する。これが「太陰太陽暦」の核心である。
春節は、二十四節気の「立春」に最も近い新月の日と定められている。つまり——
太陽のリズム(立春)と月のリズム(新月)が重なる日が、春節なのだ。
これは偶然ではない。古代中国人は、太陽と月という二つの天体のリズムを、驚くべき精度で調和させた。その結晶が旧暦であり、その新年が春節なのである。
【第四章】なぜ旧暦は人生にとって重要なのか
ここで、旧暦(太陰太陽暦)が持つ「人生にとっての意義」について、もう少し深く考えてみたい。
太陽暦は、地球の公転という「外側のリズム」を刻む。それは社会のスケジュール、ビジネスの計画、国際的な約束事——つまり「他者と共有する時間」を生きるための道具だ。
一方、旧暦は「内側のリズム」を刻む。月の満ち欠けは、潮の満ち引き、女性の生理周期、そして人間の感情の浮き沈みとも深く関わっていると言われる。
古代の人々は、新月を「始まり」、満月を「充実」、そして闇夜を「休息」のタイミングとして、自分の心身のリズムを月と調和させながら生きてきた。それは、現代人が失ってしまった「自然との共鳴」の感覚だ。
旧暦を意識するということは、単に「暦の種類が違う」ということではない。
「外側の時間(太陽)」と「内側の時間(月)」の両方を生きるということだ。
太陽暦だけを生きていると、私たちは「社会に求められる自分」だけを生きることになる。締切、予定、目標——すべて外側からやってくる。
しかし旧暦を意識するとき、私たちは「自然のリズムに共鳴する自分」を取り戻す。月の満ち欠けのように、頑張る時と休む時があり、感情が高まる時と静かに内省する時がある。その「波」を否定せず、むしろ活かして生きる智慧が、旧暦には詰まっているのだ。

【第五章】三つの新年が教えてくれること
ここで、三つの新年を整理してみよう。
| 新年 | 暦の種類 | 基準 | 意味 | 人生への示唆 |
|---|---|---|---|---|
| 元旦 | 太陽暦(グレゴリオ暦) | 地球の公転(365日) | 普遍的な時の区切り、人類共通の新年 | 社会と共有する「外側の時間」の始まり |
| 立春 | 二十四節気(太陽暦) | 太陽の黄経315度 | 自然のリズムに基づく春の始まり | 地球の鼓動と共にある「生命の時間」の目覚め |
| 春節 | 旧暦(太陰太陽暦) | 立春に最も近い新月 | 月と太陽の調和、東アジアの伝統 | 「外側」と「内側」の両方を生きる調和の智慧 |
三つの新年は、それぞれ異なる「時の哲学」を内包している。
元旦は、人間が社会を営むために作った「共通の約束事」だ。
立春は、人間が自然を観察し、そこから掴み取った「地球の鼓動」だ。
春節は、月と太陽という二つのリズムを調和させた「東アジアの叡智」であり、さらに言えば「外側の時間」と「内側の時間」の両方を生きるための智慧の結晶だ。
【第六章】そして、僕の中で起きたこと

この三つの新年が、今年は奇しくも、約一ヶ月の間に三つ並んだ。
元旦——新しい年が始まった。でも、まだ何も変わっていなかった。
立春——暦の上では春が来た。でも、心はまだ冬のままだった。
そして、この一週間。
多くの気づきが、心の中で次々と芽吹いた。
「なった」と決めることの意味を、ようやく身体で理解した。
そうして迎える明日の春節。
今度こそ、本当の意味で「新しい年」を迎えられる気がする。
短い間に、三度も「新年」を迎えた。
三度も「生まれ変わる」チャンスをもらった。
でも本当は、暦が三回来たからじゃない。
僕自身が、そのたびに少しずつ変われたからこそ、こうして「三回も生まれ変わった」と思えるのだろう。
明日からの新しい年が、すべての人にとって
「外側の時間」と「内側の時間」の両方を生きる、
豊かな一年でありますように。
Mission Bridge 代表 直ちゃん
2026年2月16日、除夕の朝に
